マルコ福音書5章1~20
異邦人が住む、「汚れた地」とされる地方、その「墓場」(5:2)が舞台です。
洞穴に葬られた死体は、腐っていきます。
ウジがわき、猛烈な臭いがします。
旧約聖書では、死体に触れたら汚れるとされていました。
「墓場」は、死の匂いに満ちた、不気味で恐ろしい場所だったのです。
狂った男の無惨な姿が描かれます。
「だれも、鎖を用いてさえつなぎとめておくことはできなかった。・・・鎖は引きちぎり足枷は砕いてしまい、・・・昼も夜も墓場や山で叫んだり、石で自分を打ちたたいたりしていた。」(5:3~5)
「名はレギオン。大勢だから」(5:9)
「レギオン」は、ローマ軍の一個師団を指します。
この男に取りついた悪霊は、それほど巨大なパワーを持ち、ローマ軍のように凶暴だというのです。
「二千匹ほどの豚の群れ」(5:13)も、「レギオン」と同じで、この悪霊がいかに凶暴かを語っています。
「人々はイエスにその地方から出て行ってもらいたいと言いだした。」(5:17)
狂った男が正気に戻ったと言うが、いつまた暴れ出すか分からない。
人々は男が癒やされたことを喜ぶどころか、どこか遠くへ行ってほしい、と願ったのです。
「主よ、あなたはわたしの魂を陰府から引き上げ/墓穴に下ることを免れさせ/わたしに命を得させてくださいました。」(詩編30:4)
ここで墓から救い出されるのは、わたしです。
自分では正気だと思っているが、実は墓場を住まいとする者であり、狂った世に住んで、夜も昼も欲望に追いかけられ、叫び声をあげ、もがいている。そんな死の苦しみから、主は助け出してくださる。
詩編は、そう歌います。
レギオンとか豚の群れは、わたしたちに取りついている欲望、猜疑心、不安、そういうものを指しています。
そんなわたしたちの思い悩みを、主イエスがすべて取り去って、まことの平安を与えてくださる。
そう読んだ時、この男の話が、わたし自身のこととして聞こえてきます。
昼も夜も叫び続け、家族から見捨てられたこの人に、主イエスは
「自分の家に帰りなさい。」(5:19)と言われた。
あなたにとって必要なのは、家族との関係を回復することだと言われたのです。
「身内の人に、主があなたを憐れみ、あなたにしてくださったことをことごとく知らせなさい。その人は立ち去り、イエスが自分にしてくださったことをことごとく・・・言い広め始めた。」(5:19~20)
「言い広める」は、福音を「宣教する」という言葉です。
この男が自分の家へ帰り、自分の身に起こったことを語った。それが福音宣教だというのです。
「自分の家に帰りなさい。そして、主があなたにしてくださったことを、ことごとく知らせなさい。」
この言葉は、わたしたちにも今日語られているのです。
(2016年10月2日)
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